奇妙な童話シリーズ■内藤更紗

   
 なまえのないかいぶつなまえのないかいぶつ なまえのないかいぶつ



 あるところに なまえのないかいぶつがいました。
 かいぶつはうまれたときからかいぶつでしたが
 よくできたマントをいつもかぶっていたので
 にんげんはかいぶつがかいぶつだとはきづきませんでした。


 かいぶつはマントをいつもきれいにしていたので
 にんげんのともだちがたくさんできました。
 それはほんとのともだちじゃないのかもしれないけど
 かいぶつにはとってもだいじなともだちでした。


 かいぶつを好きだといってくれるにんげんもいました。
 かいぶつはうれしかったけど いつもことわりました。
 かいぶつは じぶんのようなかいぶつにあったことがありませんでし た。
 だから じぶんはひとりでいきていかなければとならないとおもってい たのです。


 でも あるひ かいぶつはとうとうにんげんに恋をしてしまいました。
 恋をしたかいぶつは マントをかぶっていることをさとられてしまいま した。
 マントをぬげといわれて かいぶつはことわりました。
 かいぶつであるじぶんを そのひとにだけにはみせたくなかったのです。
 そのひとはおこって かいぶつからさっていきました。


 げんきのないかいぶつを ともだちのにんげんのひとりがなぐさめてく れました。
 かいぶつのマントにきづかないともだちでしたが
 いつもかいぶつをわらわせようといっしょうけんめいでした。
 かいぶつはそのともだちといるときだけ わらうようになりました。


 あるひ かいぶつにてがみがきました。
「ぜんせかいのかいぶつたちへ われわれのほしにかえるひがきた」
 かいぶつはおどろいて、おくりぬしにあいにいきました。
 そしてうまれてはじめて じぶんいがいのかいぶつにであったのです。


 かいぶつは じぶんひとりではなかったのでした。
 せかいじゅうのあちこちに じぶんとおなじかいぶつがいたのです。
 かいぶつたちは マントをぬいで だきあってよろこびました。
 そしてみんなで ふるさとのほしにかえるロケットにのることになりま した。


 でも と かいぶつはおもいました。

   ロケットにのってしまったら もうあのともだちとはにどとあえな いんだ。
   うまれてはじめて じぶんをわらえるようにしてくれたともだち。


「ぼくはのらない」
 かいぶつはいいました。
「ぼくはいままでどおりちきゅうでくらす」


 かいぶつたちはくちぐちに かんがえなおせといいました。
「こんなところにのこって またこれまでのようにマントをかぶってくら すのか」
「ロケットはあと100ねんはでないんだぞ」
「こんどこそ ほんとうにひとりぼっちになるよ」
「せっかくなかまにあえたのに」


 なにをいってもかいぶつがかんがえをかえないのをしると
 こんどはみんなはおこりました。
「うらぎりもの」
「おまえなんかもうなかまじゃない」
 かなしくてそういっているのがわかったので かいぶつはなにもいいま せんでした。


「さよなら」
 つきのあかるいよる ふるさとのほしにむかってしゅっぱつするロケッ トを
 かいぶつはみおくりました。
 かいぶつは あのにんげんのともだちを愛していたのでした。
 たとえいっしょうマントをかぶったままでもいいから
 いっしょうそのひとのそばで わらっていたかったのです。


 でも かえってきたかいぶつをみて
 ともだちはかいぶつのマントにきづきました。
 マントをぬげ とともだちはいいました。
 いままでだれにいわれてもことわってきたかいぶつでしたが
 愛しているひとだけはことわることができませんでした。


 かいぶつはマントをぬぎました。


 ともだちはじっとかいぶつをみつめて いいました。
「いままでおれをだましていたのか」
 かいぶつは なにもいいませんでした。
 ともだちはめになみだをうかべて かいぶつのまえからさっていきまし た。


 ロケットがはっしゃされたあとのはらっぱにすわって かいぶつはそら をみあげました。
 ほしがきれいでした。
 あのほしのどこかに かいぶつのふるさとがある。
 でもそれはなんまんこうねんもはなれたほしでした。


 かいぶつはながいあいだ じっとそらをみつめていました。
 そしていえにかえって あたらしいマントをぬいはじめました。


 これからも なんまいもマントをつくることになるだろうとかいぶつは おもいました。
 これはきっとその1まいめ。
 さきはながい。
 なんまいもマントをつくり なんかいもマントをぬいで
 いつか マントのいらないにんげんにあおう。
 そしてふたりならんで
 100ねんたって むかえにきたロケットのなかまにいってやるんだ。


「このほしも そんなにわるくないよ」




なまえのないかいぶつ 了 

●TOPに戻る